11月8日に公開された映画『本心』は、平野啓一郎さんの小説を原作とした社会派・SFヒューマンミステリーです。
石井裕也監督が挑んだこの作品は、AI技術が進化した近未来を舞台に、テクノロジーと人間の関係性という問いを、投げつけてくるような内容です。
先陣を切って鑑賞したウォッチャーからは、俳優陣の演技が素晴らしすぎる!との高評価が寄せられる一方、内容の難しさに消化不良を起こす人も・・・。
ここでは、テーマごとに、レビューについて解説していきたいと思います。
映画『本心』については、こちらをご覧ください
文句なしの俳優陣
映画『本心』には、名の知られた豪華キャストが集まっています。
「全員が本当に実在する人物のようで説得力がある」
「それぞれが独特の個性を放っている」
と、すこぶる高評価です。
それでは、主要キャストごとに見ていきたいと思います。
石川朔也役:池松壮亮さん
まず、一番に瞳孔が開いてしまうであろうポイントは、なんといっても主演の池松壮亮さん。
母を失い、深い喪失感から這いつくばるように出口を探す主人公・石川朔也を演じています。
池松さんと言えば、「泣き沼俳優」だと私は思っているのですが、今回は更に進化したようです。
「天才の域に達している!」
「眼と心をわしづかみにされた」
「この役は池松さんにしかできない」
という声もあり、今年の主演男優賞受賞の期待も出はじめています。
ぜひ受賞していただき、本心からの泣きの極みを見てみたいですね。
池松さんの演技からは、染み出す孤独感と共に、変化していく母への思いが幾千と放たれ、ウイルスのように私たちの体内に入り込み、いつのまにやら体内で増殖していることでしょう。
石川秋子役:田中裕子さん
田中裕子さんといえば、本当に母になってほしい女優ベスト3!に入るような、朗らかな女優さんですよね。
その田中さんが母を演じるとなったら、それはもう神のような母親かと想像するのですが・・・でも今回は、本物ではなく、AIです。
「自由死」を選んだ母・秋子を、主人公が、AI技術「ヴァーチャル・フィギュア(VF)」で再現するという設定です。
母・秋子を演じた田中さんは、
「本物のAIのような存在感」
「秘めたものや、人生が凝縮された声が本当にいい。」
「泣けてしまった」
と絶賛されています。
田中さんは、亡くなった母をAIで再現した存在として登場する役どころですが、近い未来に体験できるAIだと思って見てみると、より親しみがわくかもしれません。
三好彩花役:三吉 彩花さん
三好と三吉、何度確認しても、間違っていないか不安になってしまうのですが・・・。
「整形している」「主人公が美しいと感じる」という原作の設定の上での登場です。
改名していればキャスティングされなかったかもしれない三吉さんですが、
「透明感あふれる美しさが、筆舌つくしがたい」
「存在感が素晴らしい」
「雑な髪形や化粧、服装により、素の美しさが際立っていた」
「主演を食っていたのではないか」
という評価が出ております。
三吉さん、大人になりましたよね。
VF技術者 野崎役:妻夫木聡さん
妻夫木さんの演技には、
「あやしいスマイルに引き付けられた」
「いい人なのか悪い人なのかわからない、ミステリアスな演技が上手」
などの声があり、確実に物語を盛り上げています。
先輩ヴァーチャルフィギュア(VF)中尾役:綾野剛さん
たった数分の出演であり、綾野さんをこんな風に使えて贅沢な映画だなと思うのですが、さすがの演技で、
「心があるようで無いVFを見事に存在させていた」
「VFの複雑な立ち位置や、人間がVFに装備させた心情がよくわかった」
と、物語のスパイスとなっているようです。
幼馴染 岸谷役:水上恒司
若者から人気の出てきている水上さん。
ひょうひょうとし、情に熱いながらも、大事件に関わってしまうという、なかなか癖のある役どころですが、
「ハマりすぎて怖かった」
との声が出ています。
社会の裏を見せる熱演に、敏感な方は要注意かもしれません。
テーマはいろんな角度から見られる
AIやVRといった技術が日常生活に入り込む未来で、もはや後戻りできない人間とテクノロジーがどう共存するのか?がテーマとして浮かび上がっています。
そういった社会において「この映画は、人との距離感についての物語」という感想も出ています。
死生観、テクノロジー、身体的、過去の出来事、そういったたくさんの要素が、人と人をつなげ、あるいは手を離し、未来つながりを生んでいく、そんな物語は、人でもロボットでもない、それ以前の、分子たちがくっついたり離れたりしていくさまを見ているようです。
また、石井監督の視点から「AIの功罪」だけでなく「人間の悪意」も描かれており、悪いのはAIなのではない、AIを使いこなせない、AIに悪さをさせてしまう人間なのだと読み取ることもできるようです。
原作を読む・読まない?
本作は、原作小説からいくつかの変更が加えられています。
舞台が2040年から2025年に変更されているほか、登場人物の背景や設定も少し違っています。
たとえば、母の死因がドローン事故から川での事故に変わっており、映画では朔也が1年間昏睡状態にあったという設定になっています。
原作を読んだ方の中には
「端折られている部分がある」
と感じる方、
「原作を読んでいないと内容がぼんやりとしか分からないと思う」
との意見もありました。
しかし、原作ファンの中では、
「原作とはまた違って面白かった」
という意見もあり、原作を読んだ上で、変化を楽しめる方には、向いている映画と言えます。
映画と原作の違いについては、こちらで解説しています。
「リアルアバター」と現代のリアルな影響
『本心』には「リアルアバター」という仕事が登場します。
AI時代の新しい仕事代表!でもありますが、AI職業の闇についても描かれます。
ネタバレになりますが、「リアルアバター」を通じて犯罪に巻き込まれていく岸谷を見て、「現実の闇バイトを連想した。」という声もありました。仮想現実の世界に、犯罪や悪意もだんだんと適応してはびこり、知らないうちに大きなトラブルに巻き込まれるリスクがあるんだなと、身に染みて考えさせられます。
そして、テクノロジーが発達しても。根本的に変わらない社会的な問題、それをどう克服するか・・・答えは出ません。
内容全般の感想
その他の感想をまとめてみます。
「テーマが面白い」
「何年かたって、また見てみたい」
「現実を突きつけられ、日本が心配になった」
「思っていたより、笑いどころが結構あって和んだ」
盛りだくさんの内容に、いろんな感情が揺さぶられるようです。
「見ていて辛い」という意見も
一方、映画が合わなかったという意見も見受けられます。
「辛い描写があり、心が苦しくなる」
「SFの映像化としてはチープな印象」
「テーマが分散していて分かりづらい」
「最後まで、母親の本心がよくわからず、タイトルの回収ができていない感じがある」
「内容を真摯に楽しみたかったので、三吉彩花のシャワーシーンはいらない」
「何故か涙が止まらずしんどい」
原作自体がかなり深いテーマに踏み込んだ作品なので、好みではないという方もいるようです。
また、観た後に必ず心地よくなる種類の作品ではないため、ある程度の覚悟を持って見た方が楽しめるかもしれません。
まとめ
映画『本心』は、AI社会においても温かい手触りを残してくれるキャストの演技が、絶大な評価を得ています。
テーマが広いので、気になった部分にフォーカスして見てみるのもよいかもしれません。
映画でも原作でも、いずれ行われるであろう配信でも、未来予想図として、触れてみてほしい作品です。
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