映画『本心』は、作家・平野啓一郎さんの小説をもとに、石井裕也監督が手がけた話題作です。
舞台は2025年。
AI技術が急速に発展し、「自由死」という概念が現実化された世界で、主人公がAIを用いて亡き母の「本心」に迫ろうとする姿を描いています。
本記事では、映画『本心』についてさらに詳しく解説していきます。
映画『本心』の予告はこちら
映画『本心』の基本情報
公開日:2024年11月8日
上映時間:122分
監督・脚本:石井裕也
制作プロダクション:RIKIプロジェクト
配給元:ハピネットファントム・スタジオ
ジャンル:SF要素を含むヒューマンミステリー
年齢制限:映画『本心』にはPG-12指定がついています。劇中で扱われる「自由死」や、人間の心にまつわる深い葛藤といったテーマから、慎重に年齢制限が設けられています。
親子で鑑賞する際には、映画のテーマについて一緒に考え、話し合う機会にもなるでしょう。
あらすじ・ストーリー
物語の舞台は、近未来の日本である2025年です。
主人公・石川朔也(いしかわさくや)は、工場での勤務中に、同居する母・秋子から電話を受けます。
「帰ったら大事な話をしたい」と言う母ですが、豪雨の中、氾濫する川べりに立っているところを、朔也が見つけます。
朔也は母を助けようと自分も川に飛び込んだことにより重傷を負い、一年間の昏睡におちいってしまいました。
目が覚めると、世界は一変しています。
最愛の母は、他界してしまっている。
そして、「自由死」の制度に基づき、自ら命を絶つ決断をしていたと聞かされます。
そして、溶接工であった朔也の職場は、ロボット化の波に押され、閉鎖されていました。
職を失った朔也は、幼馴染の勧めにより、『リアル・アバター』という仕事を始めます。
さらに、母の言っていた「大切な話」を聞くため、朔也は、「ヴァーチャル・フィギュア(VF)」と呼ばれる技術により、仮想空間で母と再会します。
何故、母は自由死を決意したのだろう?
疑問は朔也の頭にいつまでも住み着いています。
VFである「母」や、母の友人である三好からの情報により、母の悩みや出生の秘密が少しずつ明らかになります。
さらに、三好との関係や、仕事でのトラブルにより、話はまったく違う方向に進展していきます。
「リアル・アバター」という仕事
朔也がはじめた、「リアル・アバター」という仕事。
カメラが搭載されたゴーグルをつけ、依頼者の指示通りに行動することで、依頼者は朔也の体験を疑似的に体験することができます。
「リアル・アバター」についてのエピソードでは、人の願いをかなえられるという喜びと同時に、心ない人々の悪意ある行動や理不尽なレビューにより心をむしばまれる、闇の部分も多く描かれます。
原作小説・本は?平野啓一郎の描く未来の「本心」
映画『本心』の原作は、芥川賞作家である平野啓一郎さんが手がけた同名の小説です。
平野さんは「分人」という独自の概念を提唱しています。
人は相手や場面に合わせて「複数の自分」を使い分けることが自然だとする考えです。
本作でもこの観点が活かされ、母親のさまざまな側面が明かされていきます。
また、平野啓一郎さんの代表作には『マチネの終わりに』『ある男』などがあり、いずれも人間の本質や心を描いた作品として高く評価されています。
監督・脚本
映画『本心』の監督・脚本を手がけたのは、石井裕也監督です。
石井監督は、日常に潜む人間の複雑な感情を描くことに定評があり、本作では未来社会を背景に、人間の本質を見つめる物語を紡いでいます。
映画化するにあたり、石井監督は「AIや技術が進化した社会で、本当の心はどこにあるのか?」という問いを映像で表現することを目指したそうです。
池松さん、妻夫木さん、綾野さんなどは、「石井組」常連であり、あうんの呼吸での撮影となったのではないでしょうか。
キャスト(出演者)
1. 石川朔也(池松壮亮)
池松壮亮が演じるのは、主人公の石川朔也。母の「自由死」の謎を追いかける青年です。池松は、深く内面を掘り下げる演技が評価されており、今作でもその力を発揮しています。朔也は、AI技術で再現された母との対話や、三好との関わりを通じて、未来社会の中で自分の心と向き合います。
2. 石川秋子(田中裕子)
朔也の母である石川秋子を演じるのは、日本を代表する名女優、田中裕子。母親としての生身の姿と、AI技術で蘇った「ヴァーチャル・フィギュア(VF)」としての存在感を、二役で演じ分けます。秋子は物語の中で「自由死」を選んだ理由を朔也に問いかけさせる重要な役割を担い、田中の深みのある演技が、母の秘めた感情と過去を表現しています。田中は長年にわたり数々の映画で高い評価を受けており、本作でもその経験を活かした存在感を放っています。
3. 三好彩花(三吉彩花)
三吉彩花が演じるのは、母の親友でもある三好彩花。朔也の知らない母のことをよく知る存在です。彼女は過去のトラウマを抱え、人との接触を避けるミステリアスな女性として描かれています。三吉は、繊細な心の動きを表現することに定評があり、この役でも心の葛藤をリアルに演じています。三好は辛い過去を持っていますが、朔也との交流をきっかけに世界を広げていきます。
4. 岸谷(水上恒司)
水上恒司が演じる岸谷は、朔也の幼なじみです。朔也にリアル・アバターの仕事を紹介し、ヴァーチャルフィギュアの存在を教えてくれましたが、重大な事件に巻き込まれていきます。岸谷は、軽やかでユーモラスなキャラクターですが、朔也に対して深い友情を持っています。水上恒司は、これまでの出演作でも、キャラクターに人間味を与える演技が評価されており、今作でもその魅力が発揮されています。
5. 野崎将人(妻夫木聡)
技術者の野崎将人を演じるのは、実力派俳優の妻夫木聡です。野崎は、朔也の依頼を受け、AI技術を駆使して彼の母を再現する技術者です。テクノロジーが人間の心や感情をどのように再現できるかというテーマの限界と可能性が、朔也と野崎とのやり取りを通じて描かれます。妻夫木は、科学者としての冷静さと、朔也に対する共感をバランスよく表現しています。
6. イフィー(仲野太賀)
仲野太賀が演じるイフィーは、世界的に有名なアバターデザイナーであり、物語の中で朔也と三好に大きな影響を与えるキャラクターです。彼は事故で身体が不自由になったという背景を持ち、自分とは違い他人の体を自由に貸し出す朔也のリアルアバターの仕事に興味を抱きます。朔也の人生を好転させ、三好にも好意を持つことで、物語が進んでいきます。仲野の演じるイフィーは、未来社会における新しい職業の象徴的存在であり、テクノロジーの限界をも感じさせます。
7. 若松(田中泯)
田中泯が演じるのは、朔也のリアルアバターの仕事の最初の依頼人である若松です。自らの「自由死」を選択し、最後の願いを朔也に託します。田中の演技は静かでありながら圧倒的な存在感があり、若松の人生の最後の選択が物語に重厚感を加えています。彼のキャラクターは、生と死の選択というテーマを深く掘り下げる重要な役割を担っています。
8. 中尾(綾野剛)
綾野剛が演じるのは、野崎によって生み出されたヴァーチャル・フィギュア(VF)である中尾です。彼は、テクノロジーによって再現された存在として、朔也に「心」や「感情」について語りかけ、物語の中で象徴的な役割を果たします。綾野剛は、難しい役柄を深い洞察力で演じ、VFというテクノロジーが持つ可能性と限界を表現しています。
衣装・カメラ・美術
映画『本心』の衣装・カメラ・美術には、デジタル社会をリアルに表現するため、細やかな工夫が施されています。
主人公・朔也(池松壮亮)が身に着ける服は、シンプルで現実感を感じさせるものに統一されています。
また、秋子役の田中裕子の衣装は、彼女の人物像に合ったクラシカルで温かみのあるデザインが採用され、キャラクターに深みを与えています。
(参考: Fashion Press)
カメラワークの特徴
石井裕也監督が得意とする「静かで力強い視点」が、品よく、丁寧に映像でも表現されています。
テクノロジーの進化の中でより際立つ、人間らしい感情は、アップにより、細かな表情まで映し出されています。
少しだけ近未来の風景や、リアルとバーチャルの境界の曖昧な部分は、映像ならではの体験と言えます。
音楽
映画『本心』の音楽を手掛けたのは、作曲家Inyoung Parkと河野丈洋です。
主人公が母親の本心を探る過程での緊張感や感動を、音楽が巧みにサポートしていると評価されています。
では、この二人の経歴を見ていきましょう。
Inyoung Park(朴仁英・パク・インヨン)の経歴
Inyoung Park(朴仁英・パク・インヨン)は、韓国出身の映画音楽作曲家です。
6歳からバイオリンとピアノを始め、クラシック作曲を正式に学びました。
その後、韓国のポップ音楽(K-pop)業界でキャリアをスタートさせ、ニューヨーク大学で映画音楽を学んだ後、映画作曲家としての活動を広げました。
Inyoung Parkは、カンヌ、ヴェネツィア、ベルリンなどの国際映画祭に招待された複数の映画で作曲を担当しています。
特に、2012年の第69回ヴェネツィア国際映画祭で金獅子賞を受賞した映画『ピエタ』では、音楽が高く評価され、同年の韓国女性映画人賞でも認められました。
また、PSY、Lena Park、趙容弼などの韓国アーティストのために、数多くのストリングスやオーケストラのレコーディングセッションを手掛けています。
作品は、ニューヨーク、メルボルン、東京、ロサンゼルス、ナッシュビル、ロンドン、プラハなど、世界各地で録音されています。
現在、Inyoung Parkはロサンゼルスを拠点に活動し、韓国とロサンゼルスを行き来しながら、文化や地理的な違いを超えて、情熱を共有できる監督やミュージシャンとのコラボレーションを楽しみにしているとのことです!
河野丈洋(こうの たけひろ)の経歴
河野丈洋(こうの たけひろ)は、1978年9月18日生まれ、埼玉県上尾市出身の作曲家・音楽家です。
2001年、ロックバンド「GOING UNDER GROUND」のドラマーとしてデビューしました。
バンドではリーダーを務め、多くの楽曲の作詞・作曲を手掛け、ドラムス以外にもピアノ、ギター、パーカッション、ヴァイオリンなど多彩な楽器を演奏し、メインボーカルを担当することもありました。
2009年にはシンガーソングライターとしての活動も開始、直木賞作家の角田光代と結婚しています。
2015年にGOING UNDER GROUNDを脱退し、その後は舞台音楽や劇伴の制作を中心に活動しています。
一番右が河野さんです。
多くの鴻上尚史作品において音楽担当を務めており、映画やテレビドラマの音楽も手掛けています。
主な作品として、同じく石井監督の作品である、映画『町田くんの世界』(2019年)、『生きちゃった』(2020年)、『茜色に焼かれる』(2021年)などの音楽を担当しています。
また、テレビドラマでは『中学生日記』(2009年 – 2010年)、『キッドナップ・ツアー』(2016年)、『絶メシロード』(2020年、2022年)などの音楽を手掛けています。
さらに、松たか子、藤井フミヤ、城南海などに楽曲を提供しています。
Xでは、愛猫のトトさんの投稿がよく出てきます。
見どころ・注目シーン
映画『本心』には、観客の心に響く見どころや感動のシーンがたくさんあります。
いくつかの注目シーンを紹介します。
1. AIで蘇る母との対話
主人公・朔也がAIで再現された母との対話、特に滝での場面は、物語の中でも特に心に残る場面です。
母との最期の交流シーンが、映像でどのように再現されるかは注目です。
2. リアル・アバターとしての仕事
朔也がリアル・アバターとして働くシーンでは、未来社会が描く「他人の体験を代わりに体験する」という斬新な技術がリアルに伝わります。
この映画独自の世界観が、テクノロジーがもたらす新しい価値観を感じさせます。
3. 三好との再会
三好と交流を深めていくシーンも見逃せません。
彼女は朔也の過去を知り、彼にとって大切な存在です。
二人の交流には、温かさと切なさがあり、心に深く残るものがあります。
制作の背景:監督とキャストが語る作品への想い
石井裕也監督は、主演の池松壮亮が原作小説『本心』を紹介したことが映画化のきっかけだったと語っています。
池松さんは平野啓一郎の小説を読んだ際、未来社会における倫理観や人間の存在意義が深く描かれていることに心を打たれ、「この作品は今、映画として世に出すべきだ」と考えたといいます。
石井監督は、「技術が進化する未来において、私たちは何を得て、何を失うのか?」というテーマに強く共鳴し、映画化を決意しました。
石井監督は、AIと人間の関係が引き起こす心の揺れ動きをリアルに描き、観客にも問いを投げかけることを目指したそうです。
池松さんも、演じるにあたり、「この役を通して自分自身と向き合う覚悟が必要だった」とインタビューで語っています。
石井監督との9度目のタッグについても、「互いの信頼関係があるからこそ、挑戦的な役柄に臨むことができた」と話し、作品に込めた強い思いを明かしています。
また、原作者の平野啓一郎氏も「映画による新しい解釈や視点に期待している」とコメントしています。
こうした監督、原作者、主演俳優の熱い思いが集結した『本心』は、技術と人間性の本質に迫る深い作品として完成しました。
(引用:ひとシネマ)
映画『本心』に似ている映画は?
『本心』と似たテーマや設定を持つ映画を紹介します。
これらの作品もAIや人間の感情に関する哲学的なテーマを含んでおり、テクノロジーと人間の本質的な関係を深く探求しています。
- 『her/世界でひとつの彼女』 スパイク・ジョーンズ監督のこの作品は、未来社会を舞台にAIとの関係性を描いています。孤独な主人公がAIと恋愛関係に陥るという展開は、『本心』と同様に人間とAIの感情的なつながりについて考えさせられます。
- 『ブレードランナー 2049』 デニス・ヴィルヌーヴ監督のSF映画で、AIと人間の違いや人間性の意味について問いかけます。特に人工的に作られた存在が持つ「記憶」や「感情」の描写は、『本心』のAIによる母の再現と通じる部分があります。
- 『エクス・マキナ』 アレックス・ガーランド監督の作品で、AIと人間の関係がテーマです。人間とAIの境界が揺らぐ中で「本心」とは何かを探る点が『本心』と重なります。
映画『本心』は、現代と未来をつなぐテーマをリアルに描きながら、「本当の心」や「人間らしさ」とは何かを問いかける深い作品です。技術と人間の関わりが描く未来像を体感し、観客もまた、自身の心と向き合う時間を持てるでしょう。
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