昭和初年の九十九夜町(つくもやちょう)。
うそが分かる力を隠して生きていくために、生まれ育った村を出た浦部鹿乃子(うらべかのこ)。
誰かが嘘をつくと、言葉に金属をたたいたような固いこだまがかかり、浦部鹿乃子(うらべかのこ)にはウソと分かります。しかし、村のみなには気味悪がられ、疎まれ、出ていけ!と家に張り紙をされてしまいます。
うそが分かるなんて、すごい力ですね!
でもうそをつくと、心拍が微妙に変化したりして「ウソ発見器」に引っかかるわけですから、その変化を敏感に感じ取り、うそが分かる人間がいても、おかしくはないですよね!
鹿乃子が歩く街中には、うそがあふれています。
鹿乃子の耳には、道行く人のさまざまな、他愛もないうそから、だまそうとするうそまで、さまざまな嘘が聞こえています。
私も、若いころは、やたらとウソをついていた記憶があります。本当の自分を知られたくないうそ、みえっぱりのうそ、心配をかけたくないうそ、ついているうちに、あれ、なんで自分は今うそをついたのかな?と、思うくらい、うそをつくのがくせになっていた時期がありました。息を吐くようにうそをつく、ってこういうことだったなと、振り返って思います。
だから、人のウソを責めたりはできないですね。まあ、どちらかというと、人の言うことを信じてしまうタイプなので、不倫騒動などがあっても、「お友達って言ってるよ、不倫じゃないみたいだよ」と思っていたので、人のウソにはとことん弱く、うそをつくのは自分だけだと思っているふしはあります。
なので、鹿乃子が歩く街中にあふれているウソを見て、ちょっと安心したような感じがありました。
鹿乃子は新しく仕事を探します。「女給至急入用」という張り紙を見て入った「カフェーローズ」ですが、田舎臭い見た目ゆえに、もう新しい子が決まったという嘘で、断られてしまいます。
私はこれは、優しいウソの種類だと思いましたが!そんな見た目じゃ…って断られるの、悲しいですよね。
「カフェーローズ」では、金持ちの男をつかまえてお店を辞めてしまったマリーの代わりを探していたようですが、マリーの客は面食いなので務まらないと判断したようです。
鹿乃子は、稲荷神社で、のらネコとめざしの頭を取り合っていたところ倒れてしまいます。
しっぽはのらネコにあげたうえで、頭の取り合いでした。空腹なのにしっぽあげるなんて、優しい!
戦いの音を聞きつけてやってきた探偵の左右馬と警官の端崎に助けられ、お食事処「くら田」につれてこられます。左右馬は、大家さんに家賃が払えず、神社の掃除をして家賃をまけてもらおうと、友人の警察官の端崎馨(はなさきかおる)をだまして掃除にきていたのでした。
馨の漢字、難しいですが、「声」の入った馨です。なんだか意味がありそうです。
仕事を探しているという鹿乃子に端崎は、上司の子守の仕事を紹介する約束をします。
この人たちには嘘がない、たわいもないやり取りが楽しい、みんな仲良くて明るくて、私もこんな風に暮らせたら・・・と感じる鹿乃子。
そんな時「くら田」の息子、たろ坊が、八百屋のおつかいから帰ってきます。たろ坊がおつりをごまかしたことに気づき、「たろちゃんはうそつきになって、八百屋さんは何もしてないのに悪者にされるんだよ。人を悪者にするようなそんな嘘はついちゃダメ!」と声をかける鹿乃子。たろ坊は、おつりをちょろまかしていたことを告白し、厳しくられます。
険悪な空気の中、最近布巾を変えたのか?と尋ねる左右馬。浴衣をほどいて付近にしたと答えるおかみさん。この空気を読めない発言が、後々大事な役割を果たすのです。
一方鹿乃子は、自分がウソが分かるせいで、またみんなの笑顔が消えてしまった、と落ち込みます。稲荷に泊まると言って帰ろうとしますが、稲荷には野犬が出るから左右馬のところに泊まるよう、くら田の大将に勧められます。
帰り際、「あんま叱らずにたろの話も聞いてやってね。」と告げる左右馬。
左右馬の家は、くら田のすぐ隣でした。
鹿乃子の目線だけで、「祝」という苗字を不思議がっていると気づき、「イワイ」と読むことを伝えた左右馬。人をよく見てる人だなあ、と鹿乃子は尊敬の念を抱きます。
「たろ坊のあれ、なんで分かったの?」とキラキラした瞳で尋ねますが、「ただの勘ですよ。」と鹿乃子はうそをつきます。
「何だ、君も気づいたのかと思った。」とがっかりする左右馬。
左右馬は、何かに気づいているんですね!これは文字では伝わりませんが!
鹿乃子は、左右馬にうそをついてしまったことに罪悪感を感じ、「自分の口から出るウソも固くこだまして耳を打ちます。たろちゃんにウソつくなと言いながら、私はあの人たちにウソをつくのです。卑怯だけど、もうひとりはいやです。」と苦しみました。
夜中、たろ坊が行方不明になってしまいます。左右馬は、冷静に、稲荷にいるだろうと探しに出かけます。
左右馬の推理はこうです。
かのこと戦っていた猫が、首にくら田のふきんと同じ布をつけていた。たろは、食べ物商売では猫を飼うのは許してもらえないだろうから、猫をこっそり稲荷で飼っていた。弁当の残りでもやっていたんだろうが、学校が休みで弁当がない今日に何か買おうとおつりをごまかしたのだろう。しかし、稲荷に野犬が出ると聞いて、気になって探しに来た。でも、野犬なんて見たことない。野犬の正体は、なんと・・・かのこ!おなかをすかせたぐるるる
という音、ガサガサやぶの中をうごめくさまを見て、勘違いされてしまったのだと!
すごい推理力です。
しかし、稲荷に着いてもたろは見えません。
通りがかった男性に、「子ども見ませんでしたか?」と聞くと、見ていないと答えがきます。声に嘘が混じっており、たろが危ないと気づくかのこ。ずっと隠していた、実はウソが聞こえるという事実を左右馬に伝えます。そして男の後をつけると、小屋に火をつけようとしているところでした。
「はい」か「いいえ」で答える質問で核心をつけ!と左右馬。
「あんた、その中にこどもがいるだろう」
「いませんよ子供なんて」
「ウソ!」と鹿乃子が叫ぶと同時に、左右馬が小屋をけとばし、猫を抱いたたろの姿が現れました。
私の「ウソ」って言葉だけで左右馬は火の中に飛び込んだ。
どうして信じてくれたのか?と問う鹿乃子。
「人を悪者にするウソはダメだって言った人が、あんなウソつかないでしょ。」と左右馬。
そう、ただ単に、信じてくれたんじゃないんです。ちゃんと、人をよく見たうえで、根拠があって、その判断を一瞬でして、信じてくれていたんです。
事件の顛末。
たろを閉じ込めた犯人は、「カフェローズ」を辞めた美人のマリーをあやめていました。マリーを夜中に埋めているところを、野犬が気になって稲荷にやって来たたろに目撃されてしまった。男に追われ、たろは小屋に逃げこんだのでした。
「子守の話断っていい?君、うちで働きなさい」と鹿乃子につたえる左右馬。
「君のその力と僕のゴホゴホ…があれば!たくさんの人の力になれる!」
「嫌じゃないでしょ、僕たちのこと仲良くていいなーって羨ましそうに見てたでしょ」ちゃんと、鹿乃子をよく見た上で、鹿乃子の気持ちを分かった上での誘いでした。
たくさんの人に、うそが分かる力を疎まれてきた鹿乃子ですが、左右馬は、鹿乃子の
そばにいるのが「いやじゃないよ」と、本当の気持ちで言ってくれます。
誰かのために力を活かす。そんなことが私にもできるでしょうか。
鹿乃子とめざしを取り合った稲荷の猫は、イナリーと名付けられました。
イナリーがいなければ、鹿乃子と左右馬は出会えなかったことを考えると、イナリーお手柄ですね!
イナリーから、すべての物語がはじまったといっても過言ではありません。
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